近年、モバイル決済が急速に普及している。「仮想通貨」という言葉も一般的なものとなり、現金によるやり取りが減りつつあることはもはや疑いようがない社会の潮流だ。企業やサイト内で使える限定的なデジタルの通貨も増えている。そして、最近では国がデジタル化された通貨を発行しようとする動きが世界で高まってきている。
この記事では、デジタル通貨の仕組みや、各国のデジタル通貨に対する取り組みの最新情報を紹介していく。私たちが使っているお金が、実態のない「デジタル」になることは人類史上でも大きな変革となり、人ごとではない。
この記事を最後まで読めば、日本の状況だけでなくアメリカや中国、さらに初めてデジタル通貨を導入した国についても深く知ることができるだろう。
デジタル通貨(CBDC)とは
まずはデジタル通貨の基本について触れていこう。
そもそもデジタル通貨って?
デジタル通貨とは、「電子データ化された通貨」のことである。電子マネーや、ビットコインなどの仮想通貨もデジタル通貨の一種である。
それとは別に、今回はCBDCと呼ばれるデジタル通貨に注目していきたい。CBDCとは、「Central Bank Digital Currency」の頭文字をとったもので、「国の中央銀行が発行するデジタル化された通貨」のことだ。
一般的な電子マネーや仮想通貨は、国が関与しているわけではない。企業が集客のために、サイト内やアプリ内でのみ使えるように作った通貨や、少額から始められる投資対象のものであることが多い。
しかしCBDCは、現在私たちが使っている紙幣と同じ「法定通貨」であり、その価値は国家が保証している。よって、仮想通貨などのように値動きすることはなく、価値は安定している。
デジタル通貨注目の背景とは?
デジタル通貨が世界的に注目されている背景に、ブロックチェーン技術の台頭が挙げられる。ブロックチェーン技術とは、通貨の取引履歴などの情報をブロックごとに暗号化し、そのブロックをチェーンのようにつなげる技術のことである。この技術を正確に用いれば、データの改ざんや偽造といった不正が難しくなる。この技術はすでに仮想通貨でも使われており、その信頼性は高い。
また、Facebook社が発行したデジタル通貨「ディエム」(以前の名称はリブラ)の影響も大きい。ディエムは、銀行口座を持たないなどで金融サービスを受けられていない世界中の人が、簡単に資産管理や決済を行えるように、というのが発行の目的だ。
このデジタル通貨に世界中が注目し、国の中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)へのプレッシャーを少しばかり与えたと言われている。
バハマで世界初導入
2020年10月には、バハマで世界初となるデジタル通貨「サンドドル」が導入された。このデジタル通貨は専用アプリを使って、飲食店やスーパーなどのあらゆる店舗で決済手段として利用できる。導入開始から着実に利用者は増えており、出だしは好調だそうだ。
また、バハマに少し遅れてカンボジアでもデジタル通貨が導入された。このような発展途上国において、銀行へのアクセスが難しい人や銀行口座を持てない人に対して、デジタル通貨は金融サービスを提供できると考えられている。
さらに、決済の際に現金を取り扱う必要がなくなったのは、現在のコロナ情勢ではとても有意義なことだろう。このコロナ禍の影響で、バハマでは今後もより広い範囲でデジタル通貨の普及が進んでいくと思われる。
世界初となったバハマのデジタル通貨導入は世界中が注目し、日本だけでなく各先進国に衝撃を与えたといっても過言ではない。
22年北京五輪までに実用化? 中国の「デジタル人民元」
一方で、中国のデジタル通貨に対する動向からも目が離せない。
中国は近年、「アリペイ」「WeChat」といったモバイル決済が急速に普及している。中国の町でレジに並んでみれば、日本との差は歴然だ。ほとんどの人がスマホで決済を済ませている。そのため、デジタル通貨に対するハードルも低く、実用化まで秒読みという見方もあながち大げさではない。
中国は2014年から研究チームを立ち上げ、2017年にはデジタル通貨研究所を発足している。ブロックチェーン技術と既存のIT技術を組み合わせて一秒間に何万件もの取引を想定している。
また、2020年10月には、10万人以上を対象に専用のアプリを使った実験が行われている。無償でひとりあたり200元(約3200円)を支給し、実際に飲食店などの店舗で支払いに使ってもらうというものだ。
加えて、インターネット接続がない状態でのデジタル人民元のやり取りも検証された。スマホ同士を軽く触れるだけで、ネット接続に関係なく金銭のやり取りが成功することが確認されている。
さらに中国にとっては、国際金融の基軸通貨である米ドルの覇権への対抗という意向もある。すでにデジタル通貨専用のアプリも開発済みで、デジタル通貨の取り組みは先進国の中で最も進んでいる。2022年の北京五輪までに実用化を目指しており、今後も着々と進めていくとみられる。
ヨーロッパの「デジタルユーロ」の状況は?
ヨーロッパでも、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でモバイル決済が急速に普及している。デジタルへの信頼が高まっており、デジタルユーロが導入されればコロナ禍での人々の暮らしのためにも良いと考えられている。
また、欧州中央銀行はデジタルユーロ導入に関するリポートを発表し、「2021年半ばには、実証実験を始めるかどうか決定する」方針とのことだ。
しかし、サイバーリスクやユーザーの機密情報の管理など懸念事項が多く、どう対処していくかに注目が集まっている。デジタル通貨に前向きな姿勢ではありつつも、政府と国民の両方がリスクに懸念しているといった状況だ。そのため現在は主に、設計の影響や法的な事項の調査を進めている。
デジタル通貨に慎重姿勢のアメリカ
国際金融の中心地であるニューヨーク、そしてアップルやGoogleを生み出した、金融大国であるアメリカ。世界の基軸通貨であるだけに、「デジタルドル」の動向には世界中が注目している。
アメリカではデジタル通貨に対して、政府間や州によっても姿勢の違いが見られる。個人レベルでの発言が飛び交うのみで政府的な見解を明確に示していない。
しかし同時に、ボストン連邦準備銀行はマサチューセッツ工科大学と連携し、デジタルドルに関する実験を進めている。どの基盤のプラットフォームにするか、処理能力やサイバー攻撃への抵抗などについての入念な実験を重ねている。
実際にデジタル通貨を発行することになった際、どのように展開していくのか、そのために解決しておくべき基本的な疑問や問題を洗い出すことが大切だと考えられている。どのプログラミングの言語を用いるかなど基本的な課題が山積みとなっており、「世界最大の通貨」として取引を可能にするにはまだまだ時間がかかりそうだ。それも向こう2~3年ではなく、10年単位の長い年月が必要だとの見方もある。
日本の「デジタル円」はいつから?
日本も「デジタル円」発行のために着々と準備を進めている。
2020年7月には「デジタル通貨グループ」という専門部署を設置し、10月にはデジタル通貨発行に対する方針も発表されている。方針では、三段階の実証実験を進めていく考えで、第一フェーズは2021年の早い段階で実施される見通しだ。
三段階の実証実験は以下の手順で進められる予定だ。
・第一フェーズ:デジタル円の発行・送金・還収といった基本機能の検証
・第二フェーズ:デジタル円の周辺機能の検証
・パイロットテスト:実際に消費者や店舗が参加して利用実験
最も先を進んでいる中国も、2021年に発行したとして検証から発行まで7年ほどかかっている。日本でのデジタル円の発行まではまだしばらくかかるだろう。
まとめ
・デジタル通貨(CBDC)とは「国の中央銀行が発行するデジタル化された通貨」
・2020年にバハマで世界初導入
・世界で最も進んでいるのは中国、2022年北京五輪までに実用化
・懸念事項に対する入念な実験を重ねるヨーロッパ
・アメリカは実験を始めているものの、長い年月がかかる見通し
・三段階の実証実験を計画し、着々と進める日本
(今後も各国のデジタル通貨の状況をチェックし、随時レポート形式でご報告します)